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横浜地方裁判所 昭和63年(ワ)3321号 判決

原告

株式会社津名運送

被告

有限会社 関東倉庫荷役

ほか一名

主文

被告らは、原告に対し、各自二万五〇〇〇円及びこれに対する昭和六三年三月二四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決は、第一項につき、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  本訴請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自七五一万六〇八八円及びこれに対する昭和六三年三月二四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六三年三月二三日午前一時三五分ころ

(二) 場所 静岡県駿東郡長泉町上長窪東名上り線一〇二・五キロポスト付近路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 関係車両1 大型貨物自動車(横浜一一き六六六五、以下「甲車」という。)

(四) 右運転者 被告古澤徹(以下「被告古澤」という。)

(五) 関係車両2 大型貨物自動車(神戸八八か四三二五、以下「乙車」という。)

(六) 右運転者 芦尾繁雄(以下「芦尾」という。)

(七) 関係車両3 大型貨物自動車(神戸八八か三一九五、以下「丙車」という。)

(八) 右運転者 梨木利昭(以下「梨木」という。)

(九) 関係車両4 大型貨物自動車(なにわ八八あ六九六、以下「丁車」という。)

(一〇) 右運転者 小野陽侍(以下「小野」という。)

(一一) 事故の態様 被告古澤は、甲車を運転して本件事故現場道路を名古屋方面から東京方面に向けて追越車線を走行中、前方を走行中の乙車に追突したため、乙車が危険を感じ左側に進路変更したところ、後方から走行してきた丙車と乙車は衝突し、そのはずみで乙車は、前方にとばされ、さらに前方を走行中の丁車に激突し、丁車が火災を起こす事故が発生した(以下「本件事故」という。)。

2  責任原因

(一) 被告古澤

本件事故は、被告古澤が車間距離不保持、前方不注視の過失により発生させたものであるから、民法七〇九条により原告の後記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告有限会社関東倉庫荷役(以下「被告会社」という。)は、従業員である被告古澤が、被告会社の業務に従事中、右事故を発生させたものであるから、民法七一五条により原告の後記損害を賠償する責任がある。

3  損害

原告は、その所有する乙車につき、本件事故により以下のとおり損害を被つた。

(一) 修理代 四〇九万円

原告は、乙車の修理代として右金額を要した。

(二) 休車損害 二四二万六〇八八円

昭和六三年三月二四日から五月一九日まで五六日間(一日あたり四万三三二三円の割合による。)

小計 六五一万六〇八八円

(三) 弁護士費用 一〇〇万円

原告は、被告らに右損害の賠償請求をするため、原告訴訟代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼し、着手金として四〇万円を支払い、成功報酬として六〇万円を支払う旨約した。

合計 七五一万六〇八八円

よつて、原告は、被告らに対し、各自右損害金七五一万六〇八八円及びこれに対する本件事故発生の日の後である昭和六三年三月二四日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)の事実中、事故態様を除く部分は認め、事故態様のうち、被告古澤は、甲車を運転して本件事故現場道路を名古屋方面から東京方面に向けて追越車線を走行中、前方を走行中の乙車に追突したこと、乙車が左側に進路変更したところ、後方から走行してきた丙車と乙車が衝突したことは認め、その余は否認する。

2  同2(責任原因)の事実は否認ないし争う。

甲車と乙車との追突事故と、乙車と丙車との衝突事故との間には因果関係はなく、乙車の固有の過失より、甲車の事故が発生したのである。

甲車の乙車に対する追突事故は、極めて軽微なものにすぎず、乙車の運転者である芦尾自身も追突の衝撃は全く感じなかつたと明言しているのであり、むしろ芦尾は、追突の事実を容易に認めず、警察官から乙車のステツプ分の損傷を確認させられ、ようやく追突の事実を認めている。

芦尾は、乙車と丙車の事故の原因について、後者に追突されたことは無関係である旨供述し、被告古澤も、同様の供述をしている。

捜査官も甲車と乙車との追突事故と乙車と丙車の衝突事故を二つにわけ、前車を被告古澤の車間距離不保持、動静不注視による物件事故、後者を芦尾の前方不注視による人身事故と認定し、これに基づき後者の事故について、芦尾を業務上過失傷害として起訴した。

右のとおり、被告らの責任は、乙車に追突させたことによる乙車のステツプ部の損傷に限定され、乙車と丙車の衝突と前者の追突事故との間には因果関係がなく、かつ後者の事故が乙車の運転者である芦尾の前方不注視に原因がある以上、原告及び芦尾にその責任が帰せられるべきである。

3  同3(損害)の事実は否認ないし争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

(書証の成立の判断は摘示しない。)

一  請求原因1(事故の発生)の事実中、事故態様を除く部分は当事者間に争いがなく、事故態様のうち、被告古澤が、甲車を運転して本件事故現場道路を名古屋方面から東京方面に向けて追越車線を走行中、前方を走行中の乙車に追突したこと、乙車が左側に進路変更したところ、後方から走行してきた丙車と乙車が衝突したことは当事者間に争いがない。

二  本件事故の態様及び責任原因について判断する。

1  前記争いのない事実、甲七号証、証人芦尾繁雄の証言(後記措信しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば(なお、甲七号証は枝番が混乱しているので、一括して記載し、必要に応じて特定して記載する。)、以下の事実が認められる。

本件事故現場は、名古屋方面から東京方面に通じる東名自動車道(自動車専用道路)上り車線上であり、中央分離帯により上り下り線が区分されている。上り車線の車道は、進行方向に向かつて左側から路肩、走行車線、追越車線で、追越車線右側の外側線から中央分離帯まで若干距離がある。本件事故現場付近は、ほとんど直線であり、本件事故当時路面は乾燥していた。当時の指定最高速度は、明確ではない。前方の見通しは、三〇〇メートル程度で、きわめて良い(別紙図面参照)。

被告古澤は、甲車を運転して本件事故現場道路を名古屋方面から東京方面に向けて時速約九〇キロメートルで追越車線を走行中、別紙図面〈イ〉地点(以下単に符号のみで示す。)で、〈1〉’地点で減速中の乙車に気づき、〈ロ〉地点で〈2〉’地点で急減速した乙車に気づき、急制動の措置を講じたが及ばず、X1地点で追突した。

芦尾は、乙車を運転して同様に走行していたところ、〈2〉地点で前車が減速していることを発見し、危険を感じ、直ちに制動措置を講じるとともに、〈3〉地点でハンドルを左に転把し、走行車線に進入したところ、X2地点で走行車線を進行していた、梨木運転の丙車に衝突され、その後、X3地点で小野運転の丁車に乙車を追突させた(距離関係については、別紙図面参照)。

以上の事実が認められ、甲五、六号証及び証人芦尾繁雄の証言中、右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、芦尾は、甲車から追突されたことにより、乙車が本来停止できるはずのところ、停止できずに前車に追突しそうになり、左に転把したところ、丙車及び丁車と衝突したとして、丙車及び丁車との衝突について、甲車の乙車に対する追突が原因である旨の供述をしているが、甲七号証中の司法警察員の捜査報告書によれば、芦尾は、当初乙車が甲車に追突されたことに容易に気づかず、警察官が甲車の損傷と乙車のステツプ部の損傷を確認させたところ、乙車が追突されたであろうことは認めたが、追突の衝撃は全く感じていないということであり、当初の司法警察員に対する供述調書も、事故原因につき、私が走行車線の交通状況が気になる余りに左後方を左側フエンダーミラーを使つて確認している間、前方注視を怠つたため、前車の減速に気づくのが遅れたことであり、このとき既に前車に追突寸前であり、どうしても左へ逃げなければならない状態だつたので、後続車に追突されたから左へ逃げたということもない、と述べ、乙車が甲車に追突されたことは、乙車の左転把と関係にないと述べていること、芦尾は、丙車の運転者である梨木に対する業務上過失傷害で略式命令による罰金刑を受けているが、その検察官の取調の際に、前記の、甲車の追突が乙車と丙車、丁車との事故の原因となつているということを話していない旨供述していることに照らし、措信できない。

2  右事実に徴すると、被告古澤には、甲車を運転して本件事故現場道路を走行するにあたり、前方を走行していた乙車との車間距離不保持ないしは前方不注視の過失があり、右のため乙車に追突したということができる。

ところで、甲車が乙車に追突した程度は、後部ステツプが凹損するという程度のものであるから、それにより甲車の走行状態に影響を与える程度のものとはいうことはできない。また、乙車の運転者の芦尾は、事故時に乙車が甲車に追突されたことに全く気づいていなかつたのであるから、心理的にも運転に影響を与えたということはできない。

そうすると、甲車が乙車に追突したということと、乙車がその後車線変更して、丙車及び丁車間と衝突したことについては、相当因果関係があると認めるに足りないことになる。したがつて、被告古澤は、当初の甲車が乙車に追突した後部損傷の限度で責任を負うというべきである。

3  弁論の全趣旨によれば、被告会社は、従業員である被告古澤が、被告会社の業務に従事中、右事故を発生させたものであることが認められる。

したがつて、民法七一五条により被告古澤と同一の範囲で原告の後記損害を賠償する責任があるものというべきである。

三  原告の損害について判断する。

原告が、乙車を所有していることは弁論の全趣旨により認められ、以下のとおり損害を被つた。

1  修理代 二万円

甲三号証の一から九まで及び承認芦尾繁雄の証言によれば、原告は、乙車の修理代として相当金額を要したことが認められるが、後部ステツプが凹損した分の修理代は明確ではなく、甲七号証中の送致書(昭和六三年検第交三九八九号)によれば、後部ステップ凹損による損害額は右金額であると認められる。

2  休車損害 〇円

甲三号証の一から九までによれば、乙車は、その修理に相当期間を要したことが認められるが、右証拠によれば、これの大部分は、丙車及び丁車との衝突による損害によるものであると認められ、結局ステップ部の修理のための休車損害を認めるに足りる証拠はないことに帰する。

3  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告は、被告らが任意に右損害の支払をしないので、その賠償請求をするため、原告ら代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したことが認められ、本件事案の内容、訴訟の経過及び請求認容額に照らせば、弁護士費用として被告らに損害賠償を求めうる額は、右金額が相当である。

合計 二万五〇〇〇円

四  以上のとおり、原告の被告に対する本訴請求は、二万五〇〇〇円及びこれに対する本件事故発生の日の後である昭和六三年三月二四日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅滞損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条但書、仮執行宣言については同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮川博史)

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